鷲尾翼のブログ

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【エッセイ】#36『ある日の脱走日記/ムーンライズ・キングダム』

  僕は皆が思う「学校生活」を送った経験がない。

  クラスメイトのみんなと授業を受けて、少々の休み時間を思う存分に楽しみ、部活動に励み、青春を謳歌する。そんな誰もが思う学校生活を、僕は社会性が乏しい不適合者だったので、そんな景色を窓の外から見るだけだった。

  僕の学校生活を簡単に言うと、登校すると居場所は保健室か誰も使ってないような小さな教室で、先生がプリントを数枚持ってきて、書いてある問題を解くのが一日の流れだが、先生は常にいるわけでもない。チャイムが鳴った数分間にひょっこり現れる程度で、安否確認に過ぎない。問題も全問正解しなくても、そもそも問題を解かなくてもいい。言えば、自由に過ごせる牢獄のようだった。

  それが、小学校、中学校、高校の約12年間続いた。これは「懲役」とも思えるし、僕は前科者かもしれない。

 

  しかし、檻の中から見る学校の生活は眩しくて、苦しかった。

  「青春」という言葉すら知らなかった僕にとって、3−4人のグループでワイワイ話してたり、鬼ごっこや隠れんぼをしているような日常は、憧れと同時に自分の情けない事情と重なり、胸が苦しくなった。また、周りから見て僕みたいな壊れ物はウイルスのようなもので、その冷たい目線は浴びるように刺さる。

 

  そんな生活を過ごしていたら、檻の外に出てみたくなる。

  それは復讐心や恨み、妬みではなく、外の世界に対する単純な興味が当時はあった。

 

  ある雨上がりの日。

  僕が中学2年か3年だった頃。

 

  その日も小さな教室でボーッと外の景色や部屋の角に溜まった埃を見つめていたら、ふと外に出たくなった。その衝動に任せて、教室を出て、靴を履き替え、ふらふらと学校を飛び出してみた。上下長袖の体操着に薄汚れたスニーカー、その上に長めのコートを着て、水溜りが光る霧深い街の中をただただ歩いた。細い路地裏を通って、大きな橋を渡って、たまに揺れる木々を見つめて、とにかく何も考えずに歩いた。

 

  気がつけば、僕は薄暗い山を登ろうとしていた。

  車道しかないような名前もない山だったが、とりあえず車道に沿って登ってみた。雨上がりのせいか、登れば登るほどおどろおどろしい異様な空気と暗さが増していたが、それでも登り続けた。すると、突然「この先通行禁止」と行き止まりの看板が目の前に現れた。しかし、これは車道を通る車に対するものだろうと、その警告を無視していこうとしたが、その先の道は先ほどとは違い、枝や葉っぱが道路を塞ぎ、その上に泥が乗っているような危険な道だった。

  「千と千尋の神隠し」や「崖の上のポニョ」などジブリに出てくる不思議なトンネルのように、これ以上行ったら帰れるかどうか心配になるほど微塵もない霊感が反応するほど不思議な場所だった。

  けど、当時の僕はそれでも歩こうと思ったが、頭上にあった案内標識に「盛岡まで〇〇km」と書かれていた。盛岡がどの県にあるか分からなかったが、すごく遠い場所だと把握した。その時にこれ以上歩くと面倒臭くなると思い、行き止まりの看板に従い、下山した。

 

  再び行き先も決めずに歩いていると、パトロール中の警察官に捕まった。

  しばらくして、先生が車で駆けつけて来て、めっちゃ怒られた。

 

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【本日の映画】

監督・脚本:ウェス・アンダーソン
出演:ジャレッド・ギルマン、カーラ・ヘイワード、ブルース・ウィリスエドワード・ノートンビル・マーレイフランシス・マクドーマンドティルダ・スウィントンジェイソン・シュワルツマンハーヴェイ・カイテルボブ・バラバンなど
制作:2012
ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』などで異彩を放つウェス・アンダーソン監督による異色コメディー。1960年代のとある島を舞台に、ボーイスカウトに所属する一組の少年少女の逃避行と彼らを追う大人たちの姿を描く。遊び心あふれる独特の映像センスがさえる物語は、第65回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選定され、高い評価を得た。

 

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