鷲尾翼のブログ

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【エッセイ】#10『午後3時30分/ユージュアル・サスペクツ』

 ある日の午後3時30分。

 僕は「嘉志摩」という無人駅に足を運んだ。

 

 足を運んだというより、僕が駅の乗り継ぎを間違い、仕方なく嘉志摩駅に降りただけだ。しかし、嘉志摩の景色は自然豊かなものだった。

 澄んだ風になびく鮮やかな木々、昨日は雨が降っていたせいか鳥の鳴き声とともに蛙の鳴き声が聞こえるのも、また心地いい。

 本来、訪れるはずがなかった嘉志摩。久々に味わう自然に惹かれ、改札を通り嘉志摩の街に触れることにした。

 

 改札を抜けてすぐの待合室に、今の時代には珍しいブラウン管のテレビが置いてあった。茶色いボディに斜めに伸びるアンテナ、実際テレビやラジオなどが聞けるわけもないが、インテリアとして、渋谷のハチ公のように嘉志摩の街を見守っていた。

 ここで本を読むのもいいが、せっかく嘉志摩に来たんだからと古き良きブラウン管のテレビとは暫しの別れをした。

 

 街には意外にも黄色が目立ったいた。

 嘉志摩の街をアピールするポスターも、ブドウ畑のネットも、道端に咲く小さな花も鮮やかな黄色をしていた。僕が歩いた場所が偶然にも黄色に恵まれていたかもしれないが、僕は昔から黄色が好きだ。

 日本人は黄色人種と差別され、「YELLOW MONKEY」という差別用語もある。僕の好きな人はそんな侮蔑をユニークに切り替え、あえて「YELLOW」という単語を意識したテーマやバンド名を使っている。

 そんな差別を比喩に置き換え、面白いことを生み出す黄色の力は偉大だ。そんなことを嘉志摩の街でふと思い出した。

 

 木々が生い茂る抜け道を通り抜けると、小さな神社があった。

 僕は趣味で神社仏閣を巡ることが好きなので、早速財布から五円玉を取り出し、賽銭箱に入れ、二礼二拍一礼で日頃の感謝を伝えた。

 老朽化が進み、今にも柱を一本が崩れそうなほどボロボロな本殿だが、嘉志摩の街にポツンをあるこの神社は、どこか守り神のような安心感があった。僕は帰り際、こっそり賽銭箱に五円玉をもう一枚入れ、神社を後にした。

 

 日が沈み、そろそろ時間と思った頃、一人の老人が向こうから話しかけてくれた。実は、この老人に会うまで嘉志摩の街に人がいないことが不思議だった。

 嘉志摩の街について軽く談笑をした去り際、老人からこう言われた。

 「君は嘉志摩の街を見ていない、触れてもいない」

 そう言い残し、老人と別れ、お互いゆっくり歩き始めた。

 

 まだまだ知らない嘉志摩の街があるのかと思い、ふと時計の時刻を見ると午後3時30分だった。

 僕はまだ電車の中にいた。

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【本日の映画】

ユージュアル・サスペクツ (字幕版)

ユージュアル・サスペクツ (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

監督:ブライアン・シンガー
出演:ガブリエル・バーン、スティーヴン・ボールドウィンベニチオ・デル・トロ、ケヴィン・ポラック、ケヴィン・スペイシーなど
制作:1995
回想を効果的に用いた脚本で、謎多き事件を描いた作品。脚本を担当したクリストファー・マッカリーは本作でアカデミー脚本賞を受賞した。また、ケヴィン・スペイシーは本作でアカデミー助演男優賞を受賞している。

 

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