鷲尾翼のブログ

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【エッセイ】#05『老舗の定食屋/レオン』

 ある日、僕は映画館で映画を観た帰りにふと見かけた定食屋を見かけた。見た目から昔ながらの老舗と分かるぐらい風情のある外観に興味を惹かれた。

 いつもだったら向かいの牛丼屋に行くのが、今回は何かの縁だ。

 僕はその老舗の定食屋の暖簾をくぐった。

 

 店に入って気づいたが、僕は初見の店が苦手だった。

 チェーン店だったらネットでメニューを調べて、店に入ったらそれを頼めばいい。しかし、事前情報も何もない、しかも敷居がどこか高い老舗の店となると、どこに座ればいいのかも少し緊張してしまう。

 

 ガラガラと店に入ると、マスクをした60-70代のおばあちゃんが「ひとりですか?」「こちらへどうぞ」と優しく接してくれた。孤独で人間関係に飢えていた僕にとってはこの僅かな優しさにも、ほっこりとした温かさを感じる。

 

 しかし、僕の関門はまだ超えていない。

 そう、メニューだ。

 

 パッとメニューを見ると、ズラッと並ぶ明朝体に軽く動揺してしまった。自分が食べたいものも何も分からないがとりあえずメニューを小説のように黙読するしかなかった。

 そろそろ「第4章 ドリンク」と物語も終盤に迫っているところに、あのおばあちゃんがそっと近づいてくれた。僕は思わず「あの、すみません。オススメってなんですか?」と聞くと、メニューに書いてある定食を上からひとつずつ説明してくれた。

 「この定食はお昼時の常連さんがよく頼んでくれるんです」「けど、若い人だったらこれかな」と自分の見た目や心情も踏まえて色々考えてくれた。

 気付いたら、軽い談笑が混じるくらいほっこりした時間を過ごしていた。僕は軽やかな気持ちで生姜焼き定食を注文した。

 

 無事に食事も終え、会計していると、あのおばあちゃんからこんなことを告げられた。

 「この店、もうすぐ閉めちゃうのよね」

 

 突然の別れに何も言えなくなった。近年のコロナの影響や年齢の限界などを踏まえての閉店とのこと。しかも、僕が足を運んだ日が閉店の5日前で、今この文章を書いているときにはもうシャッターが閉まっていると思うと、後悔に滲む。

 お釣りを受け取り、後は店を出るだけだが、僕はどんな言葉をかけていいのか分からなかった。迷った挙句、咄嗟に「またどこかで」と言ってしまった。

 言ってすぐに後悔した。何故か気取ってダサくて、胡散臭い。素直に「美味しかったです」と言えばよかった。

 

 軽く反省していると、おばあちゃんはその言葉に対して接客言葉ではなく、優しく「またどこかで」と返してくれた。

 

 またひとり、理想の大人と出会ってしまった。

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【本日の映画】
レオン 完全版 (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

監督・脚本:リュック・ベッソン

制作:1994
ニキータ」のリュック・ベッソンが初めてアメリカで製作したバイオレンス・アクション。ニューヨークを舞台に、凄腕の殺し屋レオンと12歳の少女マチルダの純愛と戦いを描く。
 
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