鷲尾翼のブログ

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【エッセイ】#75『角の住人』

 僕が、学校生活が嫌だった。

 集団行動は苦手だったし、勉強や運動で「出来る人」と「出来ない人」と分けられることに違和感があった。

 しかし、不思議なことになぜ嫌なのか、きっかけになるような出来事は知らず知らずのうちに忘れている。

 僕も、最近まで忘れていた。

 

 ある日の雨風が目立つ金曜日。

 僕は近所の喫茶店にいた。たまには頭を使いたいと思い、喫茶店で読む用の本を一冊とメモ帳と筆箱をリュックに忍ばせ入店した。

 早速、アイスコーヒーを飲みながら本を一冊読み、SNSで投稿する映画感想の執筆も一息ついた。

 あとは何気ない時間の中で生まれるアイデアを待ちながらリラックス出来る時間を1時間過ごしてから帰ろうかなと思っていたら、隣の席に女子大学生のグループ客が入店した。

 

 穏やかな店の空気が一変、キャッキャッとした女子トークが店内に広がる。「何か嫌だな…」と思っていたが、正直どうでもよかった。

 あと10分ぐらいしたら僕は店を出るし、「家に帰ったらちょうどいい時間に寝れるな」と帰宅後の穏やかな計画も着々と進行している中だったからだ。

 

 そして、荷物を片付け席を立とうとした瞬間、僕は気づいてしまった。僕の席と女子グループの席の間の通路に女子グループの一人が持っている傘が通路を塞ぐように斜めに掛けていた。

    その時に一気にあの頃の嫌な思い出が蘇ってきた。

 

    学生時代、僕の名字は「鷲尾」なので、窓際の端、教室全体でいうと「後ろの左端」という理想の席とも言われる場所にいることが多かった。

 僕も心地よい理想の席だと思っていた。しかし、あの席での思い出は覚えていなかった。それをあの出来事で思い出してしまった。

 

 確かに僕は後ろの左端の席にいた。しかし、その周りには他の仲良しなグループが何組も群がっていて、居心地が悪かった。席を立ちたくてもグループの群れの圧力と自分の弱さで離れたくても離れなかった。結局、僕はあの頃何倍にも長く感じていた時間の中、おでこが赤くなるまで必死に寝たふりをしていた。

 

 そんな思い出したくて忘れていた嫌な記憶をあの喫茶店で思い出してしまい、あの頃のように席を離れらなかった。しかし、女子グループのトークの勢いは凄まじく、増々僕の記憶が蘇り、記憶の中の苦痛と現在の苦痛が混ざり苦行でしかなかった。

 

 そして、何より自分を被害妄想のように客観視してしまうことが苦しかった。僕は今にも店を出ようとしているが、店を出ない。このいかにも変な奴と思われても仕方がない状態で隣の女子グループも、ラストオーダーを聞いてくれた店員も「何、アイツ…」と決していい目では見てくれてない冷たい目線が辛く苦しい。

 

 結局、女子グループが退店するまで店を出ることは出来なかった。やっとの思いで会計をする頃には閉店時間ギリギリで僕しか店にいなかった。本来店を出ようとする時間より2時間もかかってしまった。

 情けなくて臆病な時間を過ごしてしまったと、家に帰る道は軽い鬱になったように傷心した。

 

 角の人間は時に苦しい。

 オセロでも、角が一番重要だと言われるマスだ。しかし、それは白い面でマスに置かれればの話。黒い面で置かれれば、周りがコロコロ変わりながらも黒いまま。

 僕はどうやら黒い角の住人だったらしい。

 

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